全国に激震走る・東京都条例の行方を追う

千葉・神奈川・埼玉で行政指導が発表される

 東京京都の賃貸住宅紛争防止条例施行からおよそ2カ月が経過しようとしている。賃貸管理業界に激震をもたらした条例を各社はどのように受け止めているだろうか。また、東京以外の業者への影書も合わせて取材した。

多くの誤解生じ混乱する業者も

  「東京では東京ルールができたから、原状回復費用は全額家主負担になるんですよね。当社の社宅に関しても、原状回復費用の負担を見直してもらえませんか」
 埼玉県のある客付け業者は、法人契約の総務担当者からこんな申し出を受けた。東京都条例は近県にも確実に影書を及ぼしている。同時に、内容について多くの誤解が生じていることも事実だ。
 前出の客付け業者は、条例は必ずしも原状回復費用の家主負担を義務付けているわけではないこと、埼玉県の物件には適用されないことを税明するのに30分を費やしたという。
 条例の施行からおよそ1カ月半が経過した。施行前後で東京都に寄せられる問い合わせ内容が変化してきている、と東京都都市整備局の臼井きく子副参事は話す。
 「条例施行前は説明書や特約の説明方法に関する質問が多く寄せられていましたが、施行後は家主との関係についての問い合わせが増えています。『家主が説明書の内容に納得しないのだが、どうすればいいか』といった内容が多いようです」
 いざ施行の段階になってみると、説明書(「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」)に関して混乱が生じているようだ。
 「わかりにくい」という声が多く聞かれる東京都の条例。そもそも、東京都の賃貸住宅紛争防止条例は、原状回復費用を家主が負担することを義務づけるものではない。最も重要なのは、「退去時の原状回復・入居中の修繕の費用負担の原則」と「実際の契約の中で借り主の負担とされている具体的内容」を説明することを宅地建物取引業者に義務づけていることだ(具体的な内容は下図参照)。これらを書面を交付して説明しなければならない点がポイントだ。

ポイント1 書面で説明すべきことは?

都条例により、宅建業事が説明するのは以下の4点。
1.退去時の通常損耗等の復旧は、貸主が行うことが基本であること
2.入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが基本であること
3.貸借契約の中で、借主の負担としている具体的な事項
4.修繕および維持管理等に関する連絡先
「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」より

 別紙にして説明することで、賃貸人に特約の内容を理解させ、退去時のトラブルを未然に防ぐ効果が期待できる。だが一方で、この「説明書」が特約に「お墨付き」を与えることになりかねない、と危惧する声が上がっている。
 「都の条例、基本的に国土交通省のガイドラインに沿った内容になっている点は評価に値するでしょう。ただし、仲介業者に説明義務を課していますが、これでは『説明さえすれば原状回復費用を賃借人負担にすることができる』ととられかねません」
 敷金問題研究会共同代表の増田尚弁護士はこう話す。
 「原状回復費用を入居者が負担することは、民法に照らして考えると消費者が不利になるものです。そのような内容が契約書に記載されていること自体が問題なのに、都条例ではその部分に触れていない点も不十分だと感じています。特約の内容によっては、条例通りに説明したとしても、後日、裁判になった場合は消費者契約法違反で無効であることを借り主が証明しなければならないでしょう。契約の内容にまでつっこんだ条例にしてほしかった、と思います」
 このような意見に対して、東京都はこう説明している。

リフォーム費用の透明化に注力

 都内の賞貸管理会社の都条例への対応はさまざまだ。D社(東京都港区)は、条例に従って特約の説明書を添付するようになったものの、原状回復共用の負担割合については従来の内容からほとんど変更していないという。
 「当社は敷金精算が問題になってきた数年前から、原状回復における家主の負担割合を少しずつ増やしてきました。そのため、あえて条例を機に変更する必要はありませんでした」 (同次長)
 負担割合よりもむしろ、原状回復費用のコストダウンに注力しているという。汚れを水で落とせるクロスや傷の付きにくいフローリングを採用したり、照明器其の焦げ付きを隠すようにデザインを工夫している。
 「当社管理物件の年間原状回復費用は75億です。管理戸数は増加していますが、この数字は5年前からほとんど変わっていません。原状回復のコストを圧縮することで、家主と入居者、双方の負担を軽減に努めています」

ガイドラインに沿った対応に変更

 都条例の影準は近県にも波及している。平成16年9月10日、神奈川県、千葉県、埼玉県は「建物賃貸借の重要事項説明等について」と題した行政指導を発表した。国土交通省のガイドラインに従う形で敷金精算を行うよう促す内容だ。行政指導なので罰則等はないが、行政が動きだしたことに注目が集まっている。
 今年2月の東京ルール発表以後、東京都には近県の担当者が相談に来ていたという。それらが行政指導という形であらわれたものといえるだろう。この行政指導は、管理会社にどのような影響を与えているのだろうか。
 千葉県柏市で約1300戸管理しているF社では、この行政指準の影響は特に受けていないという。
 「当社では以前から、畳やクロスの張り替え費用は入居者と家主で折半にしてきました。その方法で、もし入居者からクレームが来た場合には国交省のガイドラインを尊重する形で対応しています。また、契約時には特約の内容を別紙にて説明し、署名、捺印を頂いています。今後はより、国交省のガイドラインに沿った形の契約書にシフトしていく方針ですが、行政指導の影響は特に感じていません」(同社専務)

条例きっかけに家主に呼びかけ

 都条例の影響は東北地域にまで波及している。仙台にも店舗を構えるA社(本社東京都目黒区)の同社長はこう話す。
 「敷金精算に関する業界の動向については、これまでにもオーナーに対して理解を求めてきました。現在は、都条例の波及を考え、これまで以上に原状回復に関する説明に時間を割くようにしています」
 これまで入居者が負担してきた原状回復費用を、家主にも負担してほしいと訴えてきたが、なかなか理解を得られない部分が大きかった。ところが、この条例をきっかけに、「そのうち仙台でも条例の影響が表れるかも」と説明することで、家主側にも現実感が増してきたようだ。
 「現在は家主よりも入居者のほうが勉強しているケースが多く、その分トラブルも発生しやすくなっています。入居者がいなければ賃貸経営が成り立たない以上、入居者の意向を無視することはできません。条例をきっかけに、家主への啓蒙にさらに力をいれていかなければならないと感じています」(同社長)